『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』のアップデートにてオンライン対戦の環境が改善。実際には何が変更されたのか?ネット対戦の仕様を解説

202085日、『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』(以下、スマブラSP)の無料アップデートが実施され、Version8.1.0となりました。このバージョンでは「小戦場」というステージの追加などがあった他、競技シーンにとっては見逃せない「オンライン対戦時の操作感の調整」が行われたと記載されています。

 

任天堂の対戦ゲーム全般的に言えることではありますが、『スマブラSP』のオンライン対戦の環境は決して良いとは言えず、環境にもよりますがラグ(対戦時の画面のカクつき)や大きい操作遅延が存在することが知られており、「オフとオンは別ゲー」と言われる所以でもあります。COVID-19の影響でオフライン大会が制限され、オンライン大会が主流となった現在、特に海外ではオンライン環境の改善を求める声も多く、#FixSmashOnlineといったハッシュタグによるアピール活動も行われてきました。

 

今回のVer.8.1.0で『スマブラSP』のネットコードに変更が入ったのは、こういった背景を踏まえたものであることは間違いないでしょう。ただし任天堂は具体的に何が改善されたかについては触れておらず、海外のプレイヤーが検証している段階のようです。本記事では現段階で判明している仕様と変更について記述していきます。ただし、これらは全てコミュニティの調査によるものであって、正式な情報ではないことに注意してください。

 

『スマブラSP』のオンラインの仕様とよくある勘違い、そして今回何が変わったのか

 

まず、『スマブラSP』のネットコードは「ロックステップ」であり、「ディレイ方式」です。これは一体どういう意味なのか?ロックステップ方式では、毎フレームごとにオンラインセッションに参加している全てのクライアントのゲーム状況が同じであることを確認します。要するに、全ての参加者の見ているゲーム画面が同じであることを逐次確認しているということです。参加者同士で同一フレームでのゲーム内容に食い違いが生じ始めた場合はいわゆる「同期ズレ」とされ、切断されます。

 

「ディレイ方式」というのは『スマブラSP』が通信遅延のある環境下で各プレイヤーの操作をどのように同期させるかの方式です。オンラインにおいて、どのような回線環境であっても遅延0でオフラインと同じようにプレイするというのは現実的に不可能です。『スマブラSP』の通信方式はP2Pですので、遅延は対戦相手との物理的な距離に大きく依存します。ここで重要なのがpingです。pingというのは、通信相手にデータを送って返ってくるまでの時間を指します(単位:ミリ秒)。たとえばping60msであれば、データを送って相手に届くまでに30ms、返ってくるまでにもう30msと考えていいでしょう。『スマブラSP』は60fpsで動作しているため、1フレームはおよそ16msです。つまり、ping60msの相手と対戦している場合、相手から送られてくる操作の情報は全てゲーム内にして2フレーム(32ms)ぶんほど遅れているということになります。

 

相手の操作情報は2フレーム遅れてくるのに自分の操作はオフラインと同じように即座にゲーム画面に反映される場合、自分と相手のゲーム画面がどんどん違うものとなっていくことは容易に想像できます。もちろんそれではまともな対戦になりません。ではどうやってロックステップが維持されるのかというと、単純に自分の操作にも全て人工的に2フレーム分のディレイが追加されているのです。例えば自分も対戦相手も1フレーム目にAボタンを押したとします。ディレイ2Fの環境下では1+23フレーム目にAボタンが押された扱いとなり、自分のキャラの弱攻撃モーションが始まります。「対戦相手が1フレーム目にAボタンを押した」という情報も2フレーム遅れて自分に届きますので、こちらも3フレーム目に弱攻撃モーションが始まります。対戦相手側のゲームでも全く同じことが起きています。自分の操作情報は相手のゲーム機に届くまでに2フレームかかり、対戦相手の操作は対戦相手のゲーム画面では2フレーム遅延されます。これによって操作の同期が維持され、ゲームの結果も同じものとなるのです。これがディレイ方式のネットコードです。

 

ディレイ方式のネットコードでは、対戦相手との通信にかかる時間さえ把握できれば、その分の人工的な操作遅延を加えることによって操作の同期が実現するということが分かりました。しかしここまで読んだ方は薄々気付いているかもしれませんが、今解説したディレイ方式のネットコードにはもうひとつ大きな前提があります。それは「対戦相手とのpingが常に一定である」ということです。そしてこれは、非常に残念ながら全く現実的な前提ではありません。こればっかりは現代の通信インフラの限界であり、どんなに良好な回線を用意していたところである程度のpingの変動は避けられません。2F遅延環境下で対戦している時、なんらかの要因で対戦相手から送られてくる情報がさらに1フレーム、3フレーム遅れて自分に届いたとします。ゲームは操作情報が2フレーム遅れてくると見越してその分の操作遅延を挟んだにも関わらず、3フレーム目になっても相手からの操作情報がまだ到着していません。相手からの操作が届いていないにも関わらず自分側の操作だけでゲームを進めたら同期ズレになってしまいますから、この時ゲームは「相手の操作情報が送られてくるまでゲームの進行を止めている状態」になります。幸い今回は1フレーム遅れただけですので、1フレームの間ゲームを止めて4フレーム目まで待ったら相手からの操作情報が到着し、ゲームを再開させることができます。ですが、これが4フレームも5フレームも遅れて来る場合、同じ分だけゲームを止めておかないと同期が維持できません。オンライン対戦中のいわゆる「ラグ(カクつき)」の正体はこれです。

 

『スマブラSP』はよく「最低遅延7F」などと言われたりしますが、この最低遅延というのはping値の増減を見越したマージンのことでしょう。最初から7フレーム分の人工的な遅延を用意しておけば、例えばping60ms(およそディレイ2F)の通信相手が対戦中に突然2倍の120ms(およそディレイ4F)になっても、ゲーム画面を止めることなく対戦を続けることができます。『スマブラSP』が実際に7フレームの最低遅延を用意しているかどうかは不明ですが、(ping値が特に跳ねやすい)WiFiユーザーが多いことを見越して大きめの遅延設定をしているというのは十分にありえる話です。

 

ネット対戦とラグの基本的な仕組みを解説したところで、『スマブラSP』特有の仕様と、それにまつわる2つの勘違いについて述べていきます。

 

まず、回線速度とラグに直接の関係はありません。『スマブラSP』に限った話ではないですが、対戦ゲームは基本的にほとんど帯域を利用しません。ラグの原因となるのは対戦相手とのping値であり、ping値が跳ねた時にラグが発生します。「いつもより回線の調子が悪い時=回線速度の測定の結果が悪い時は、ping値も跳ねやすい」というのが真相であり、たとえ上り下り10Mbpsであってもping値が安定しているならばラグは発生しません。また、NATタイプもラグと一切直接の関係はありません。ただし、大量の観戦者がいる場合のみ帯域が若干影響します(後述)。

 

次に、「観戦者」(観戦席の人+対戦待ちの列の人)は基本的に対戦中のラグの原因となることはありません。あくまでゲームのデータを受け取っているだけです。観戦者の回線状況がどんなに悪くても観戦から切断されるだけであり、ゲームのプレイヤーには一切関係がありません。ただし、『スマブラSP』はP2Pで通信している都合上、ゲームのプレイヤーは全ての観戦者に対戦のデータを送信しています。つまり、非常に上り帯域の狭いプレイヤーの対戦に大量の観戦者がついた時のみ、帯域がキャパオーバーしてラグの原因となることがあります。観戦者も切断されることがあります。ですが前述したようにそもそもの利用帯域が非常に少ないため、よほど上り回線が細くない限りは問題になることはありません。

 

最後に、今回のアプデで変更されたとされている点について解説します。8.1.0の変更では、「プレイヤーが2人しか存在しない対戦部屋」のチックレートが60Hzに変更されました。新しい用語ですが、チックレートというのは1秒間に通信が行われる回数のことです。60fpsのゲームのチックレートが60Hzである場合、シンプルに毎フレームごとに通信が行われるということです。話をややこしくしないため、今まではこの状態を前提に解説をしていました。実際は違います。アプデ前の『スマブラSP』のチックレートは基本的に30Hzでした。これはフレーム単位で言えば2フレームに1回通信し、2フレーム分の操作情報を一気にまとめて送っているということです。チックレートは、低ければ低いほどパケットロスやラグの原因になります。チックレートが30Hzから60Hzになることで、理論上は操作遅延が少なくなっていることも考えられます。しかし『スマブラSP』がどのようなアルゴリズムでディレイ方式における遅延フレーム数を決めているのか不明のため、本当に操作遅延が軽減されるかどうかは分かりません。ただし、全体的な通信の安定性が改善されることは間違いないでしょう。簡単に言ってしまえば、対戦中にガクっとなる可能性は低くなったと言えます。

 

また、3人以上の部屋(対戦している2人以外の対戦待ち/観戦者がいる部屋)におけるチックレートは以前と同じ30Hzのままです。今回の変更で影響を受けるのは、自動マッチングによる1v1と、2人しかいない専用部屋での1v1のみということになります。

 

以上が『スマブラSP』のネット対戦と、新しい仕様に関して現在分かっていることとなります。任天堂がオンライン環境の改善に意欲的な姿勢を見せたことで、今後もドンドンネットコードが更新され、オンライン対戦が快適になり、オンラインの大会も活発になることを期待したいところです。

(C)©Nintendo

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