【eスポーツ】国別対抗戦「Esports Nations Cup」が1年延期、初開催は2027年11月へ!

Esports World Cup(EWC)を運営するEsports Foundation(EF)は8月18日、国・地域の代表チームが競う初の国別対抗戦「Esports Nations Cup(以下ENC)」の第1回大会を、2026年11月から2027年11月へ1年延期すると発表しました。開催地はサウジアラビア・リヤドのまま変更されません。中止ではなく延期であり、規模の縮小についても言及はありませんでした。

ただし、この決断が下されたのは、16タイトルの予選がほぼ消化され、100カ国・地域を超える代表チームの顔ぶれが出そろった後のタイミングでした。日本もすでに6タイトルで本戦出場権を確定させており、選手や関係者にとっては、積み上げてきた1年分の準備が行き先を失った形になります。

発表内容と公式の説明

EFが公表したプレスリリースによれば、延期の理由は「地域全体の情勢(wider regional situation)」に関する継続的な評価と、主要ステークホルダーとの協議を踏まえたものとされています。100カ国・地域を超える参加規模を「前例のない国際的スケール」と位置づけたうえで、地域情勢による不確実性のなかで開催を強行するよりも、2027年11月へ移すことがナショナルチーム、パブリッシャー、パートナー、ファンに対する「責任ある判断」であると説明しています。

EFのCEOであるRalf Reichert(ラルフ・ライヒェルト)氏は、「ENCの延期は軽々に下した決断ではありません」としたうえで、「私たちには、適切な条件のもとで、この構想にふさわしいレベルの第1回ENCを届ける責任があります」とコメントしました。

当初の日程は2026年11月2日から29日までの約4週間で、タイトルごとに週を分けて実施される予定でした。VALORANTは11月8〜15日、ストリートファイター6は11月18〜22日といった具合に、各競技のスケジュールも確定済みでした。

一方で、以下の点は維持されると明言されています。

  • ナショナルチームパートナー(NTP)に対するENC Development Fundの既存コミットメント
  • 各国のエコシステム育成プログラム
  • パブリッシャーおよびNTPとの協業体制

改定後の競技カレンダー、予選ルート、その他の影響については「今後数週間のうちに」関係者へ説明するとされており、8月24日時点で詳細は公表されていません。

ENCとは

ENCは2025年8月、リヤドで開催されたNew Global Sports Conferenceで発表された大会です。クラブ単位で争うEWCに対し、選手が所属チームではなく自国を背負って戦う国別対抗戦として設計されました。隔年開催が構想されており、初回以降は開催地を各国・各都市へローテーションさせる方針が示されています。

参加規模は、北米、南米、欧州、MENA、アフリカ、アジア、東南アジア、オセアニアの8リージョンから100カ国・地域超、延べ10万人以上の選手が予選段階から関わる想定でした。各国は「ナショナルチームパートナー(NTP)」を1つ指定し、競技団体、eスポーツクラブ、NGO、あるいは個人がEFの承認を受けて代表チームの編成と運営を担う仕組みです。ロースター規定では、1つのクラブの選手が代表チームの過半数を占めてはならないというルールも設けられていました。

実施予定だったのは以下の16タイトルです。

Counter-Strike 2、Dota 2、League of Legends、VALORANT、Apex Legends、PUBG: BATTLEGROUNDS、PUBG Mobile、Rainbow Six Siege X、Rocket League、Mobile Legends: Bang Bang、Honor of Kings、EA SPORTS FC、ストリートファイター6、FATAL FURY: City of the Wolves、Trackmania、Chess

資金面でも、EFは大会前から総額4,500万ドル(約66億円)のコミットメントを公表していました。

区分金額内容
賞金2,000万ドル16タイトルの選手・コーチへ成績に応じて直接支給。順位ごとの金額は全タイトル共通
クラブインセンティブ500万ドル代表選手の所属クラブへ支給。TOP16入り以降、選手が獲得した賞金の40%相当
ENC Development Fund2,000万ドルNTPへの投資。渡航支援、代表チーム運営、各国のエコシステム育成に充当。ENC 2026を初回として毎年拠出

賞金は1位が選手・コーチ1人あたり5万ドル、10位で1人あたり6,600ドルという設計で、タイトルの人気や競技人口にかかわらず同一の金額が支払われる点が特徴でした。所属クラブに対しても選手の成績に応じたインセンティブが支払われる仕組みは、クラブが主力選手を代表活動へ送り出すことへの経済的な補償という意味を持っていました。

さらに7月30日には、adidasがオフィシャルキットパートナーに就任することが発表されたばかりでした。100カ国・地域超、約2,000名の選手とコーチに専用のユニフォームとトラックスーツを提供するという内容で、発表からわずか3週間足らずでの延期告知となりました。

今回の延期が各国に大きな衝撃を与えた最大の理由は、そのタイミングにあります。Counter-Strike 2部門では、87の代表ロースターが世界各地の予選に参加しました。EFはこれを「Counter-Strike史上最大のオープン予選」と称し、96の予選を計画していました(うち9予選は参加チームが集まらず中止)。7月20日には24カ国・地域の本戦出場が確定し、賞金132万ドルをかけた本戦の顔ぶれが固まっていました。

Apex Legendsでは8月に入って39チームの出場権が確定し、Dota 2は32チームの枠のうち16を国別ランキング、14を予選で決める形式が動いていました。League of Legendsでは、韓国がZeus、Canyon、Faker、Gumayusi、Keria、Zekaという布陣を、中国がBin、Tian、knight、JackeyLove、ON、Flandre、Monkiを揃えるなど、各国が最上位クラスの選手を招集していました。

つまり延期が発表された8月18日の時点で、大会の骨格はすでにほぼ完成していたことになります。海外のコミュニティでは、予選の大半が終わった段階での延期は計画性を欠くという批判の声も上がりました。

米国のNTPを務めるUSA EsportsのCEOであるJesse Bodony氏は、代表選手に宛てたメッセージのなかで「取り繕うつもりはありません、残念です」と述べ、「選手、コーチ、スタッフが11月に向けて生活の時間を割いてきたことを思うと、いい気分ではありません」と率直な心情を明かしています。ブラジル代表としてCS2部門の出場権を得ていたWOOD7(Adriano Schwartz Cerato)選手も、今回の延期を「プロとしての人生で受けた最も厳しい一撃」と表現しました。

日本は6タイトルで本戦出場権を確定させていた

日本の公式ナショナルチームパートナーは一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)が務めており、ナショナルチームマネージャー(NTM)にはフリーアナウンサーの平岩康佑氏が2026年3月に就任していました。延期発表の時点で、日本は7タイトルで代表チームを編成し、うち6タイトルで本戦出場権を確定させていました。

タイトル日本代表状況
VALORANTMeiy、SugarZ3ro、Caedye、Aace、Dep、yatsuka、Yuran/コーチ Vorzアジア予選(6月26〜28日)を1位で通過。香港との一戦を2-0で制し本戦出場が決定
Apex LegendsMike、Axis、4rufa(REJECT DIVISION)APAC North予選を勝ち抜き日本代表として出場権獲得。同予選には日本から18ロースターが参加
Rainbow Six Siege XAnitun、Shureap、Chibisu(CAG OSAKA)、Rec、Wqsyo1(SCARZ)、Aokayu、Ayagator(KINOTROPE gaming)/コーチ DDアジア予選(5月29〜31日)の敗者側決勝で韓国に2-1勝利、2位で出場権獲得
Rocket Leaguefurlashh、Lunatic.、nai、Burn/コーチ Nunki国別ランキング13位で本戦へ直接招待
ストリートファイター6ひかる、さはら、ふ〜ど、ひぐち24カ国・地域の1つとして出場決定
FATAL FURY: City of the WolvesGO1、ネモGO1はSNK World Championship 2026のランキングで直接招待、ネモは東アジアオンライン予選を優勝
League of LegendsLJL勢中心(Momoほか)/コーチ Pazアジア予選(6月)で2勝2敗の地域3位。本戦進出はならず

VALORANT日本代表は、DetonatioN FocusMe、ZETA DIVISION、FENNEL、REJECT、QT DIG∞という国内5クラブから選手が集められた編成で、コーチにはDetonatioN FocusMeのVorz氏が就任していました。アジア予選を1位で通過した際には、選手個人の配信を含めて高い注目を集め、国内リーグの枠を越えた「日本代表」という括りが機能しつつある手応えも生まれていました。

Rainbow Six Siege X部門は招待枠に入れず予選からの挑戦となりましたが、アジア予選で韓国を破って2位に滑り込み、出場権をつかんでいます。ストリートファイター6部門の4名は、Capcom Cup 12王者のさはら選手、競技歴15年前後のベテランであるふ〜ど選手、EWC出場経験を2度持つひぐち選手、World Warrior Japanで優勝経験を持つひかる選手という顔ぶれで、4対4のチーム戦という格闘ゲームとしては珍しい形式に向けた準備が進められていました。

日本代表チームを統括する立場にある平岩氏は、延期発表を受けて自身のSNSで「皆さんの覚悟と時間をお預かりしながら、大舞台までお連れすることができませんでした」「正直、私自身も言葉を失っています」と綴りました。3月の就任以降、サウジアラビア側との会議を重ね、JeSUや国内のプロチームとの調整を進めてきた経緯にも触れたうえで、「日本代表として最高のチームを送り出せるよう、引き続き力を尽くしてまいります」と述べています。

なお、ENC公式サイトの各国・地域ページは、延期発表とともに見出しが「Esports Nations Cup 2026」から「2027」へと書き換えられ、各国カードに表示されていた出場タイトル数、直接招待枠、登録選手数の数値がいずれも0表示となりました。ロースター発表の記事自体は削除されずに残っていますが、獲得済みの出場権が2027年へ引き継がれるのか、それとも改めて予選が実施されるのかは、8月24日時点で明らかにされていません。平岩氏によれば、9月中に世界各国のNTMを対象とした説明会が予定されており、この場で出場権の扱いや改定後の競技カレンダーが示される見通しです。

また、今回の判断を理解するうえで欠かせないのが、同じEFが運営するEWCとの対比です。EWC 2026も当初はリヤド開催が予定されていましたが、開幕の約1カ月半前となる5月に、開催地をフランス・パリへ移すことが発表されました。中東地域における航空便の運休や領空閉鎖が相次ぐなか、約7週間にわたる大会期間中のフライト混乱リスクを避けるための判断でした。結果としてEWC 2026は7月6日から8月23日まで予定どおり実施され、賞金総額7,500万ドル超という過去最高規模の大会として幕を閉じています。

つまりEFは、EWCについては「開催地を動かして実施する」という選択を取れたのに対し、ENCについては「開催地を動かさずに1年待つ」という選択を取ったことになります。この違いには、両大会の性格の差が反映されているとみられます。EWCはクラブ単位の大会であり、参加するのは各クラブが選抜した選手団です。会場が変わっても大会の枠組みそのものは維持されます。一方のENCは、100カ国・地域を超える競技団体や各国のNTPが関わる国別対抗戦であり、選手のビザ発給、代表団の渡航、各国からの公式な派遣手続きといった行政的な要素が桁違いの規模で絡んできます。開催地を移す場合、そのすべてを組み直す必要が生じます。

加えて、ENCはサウジアラビアが自国で立ち上げる初の国別対抗戦であり、リヤドという開催地そのものが構想の一部として位置づけられていました。初回大会を国外へ移すことは、大会の意味づけを変えてしまいかねません。EFがリヤド開催を維持したまま延期を選んだ背景には、こうした事情があったと考えられます。

サウジアラビアのeスポーツ戦略と地域情勢

ENCの延期は、サウジアラビアがここ数年進めてきたゲーム・eスポーツ分野への大規模投資という文脈のなかでも、無視できない出来事となります。

サウジアラビアは2022年に国家ゲーミング・eスポーツ戦略を策定し、2030年までにゲーム開発とイベント運営の分野で3万9,000人の雇用を創出し、年間133億ドル規模の市場を形成する目標を掲げています。EWCの創設、ESL FACEIT Groupの買収、EVOの取得、そして2026年8月に完了したElectronic Artsの買収まで、一連の動きはこの戦略に沿ったものです。ENCはそこに「国別対抗戦」という新たな柱を加えるプロジェクトでした。

しかし2026年2月28日に始まった米国・イスラエルとイランの軍事衝突以降、サウジアラビア国内でも民間施設への被害が発生し、大型の国際イベントが相次いで影響を受けています。

イベント影響
Esports World Cup 2026リヤドからパリへ開催地を変更
F1サウジアラビアGP(ジェッダ、4月)中止。代替日程は設定されず
サウジ映画祭4月下旬から6月下旬へ延期
LEAP(テクノロジー会議)4月から8月下旬へ延期
サウジ資本市場フォーラム2026年4月から2027年3月へ延期

eスポーツに限った話ではなく、国際的な集客を前提とする大型イベント全般が同じ制約を受けている状況です。ENCの延期も、この一連の流れのなかに位置づけられます。

また、サウジアラビアが関わる国際大会構想としては、2025年10月にIOCとのあいだで結ばれていたオリンピックeスポーツゲームズの12年契約が相互合意により解消された経緯もあります。同大会は当初2025年開催予定だったものが2027年へ延期され、その後に契約自体が解消されるという流れをたどりました。ENCはこれとは別枠の、EF主導のプロジェクトではありますが、「国を代表して戦うeスポーツの国際大会」という構想が続けて予定どおりに実現しなかったことは、事実として残ります。

今後の焦点

現時点で最大の焦点は、すでに確定した出場権の扱いです。eスポーツはロースターの流動性が高い競技分野であり、1年という期間はチーム編成が大きく変わるのに十分な長さがあります。2026年の予選結果をそのまま2027年に持ち越すのであれば、その時点でのベストメンバーと代表チームが一致しない可能性が出てきます。一方で改めて予選を実施するのであれば、2026年に費やされた各国の準備と選手の時間は、直接的な成果に結びつかないことになります。EFはこの点について「改定された競技カレンダーと予選ルート」を今後説明するとしており、9月のNTM説明会が最初の節目になります。

もう一つの論点は、大会サイクルへの影響です。ENCは隔年開催として構想されており、初回が2026年11月であれば第2回は2028年という計算になります。2027年11月へずれ込んだ場合、次回が2029年になるのか、あるいはサイクルそのものが再設計されるのかは示されていません。EWCが毎年夏に開催されることを踏まえると、両大会の年間カレンダー上の位置関係も含めた整理が必要になります。

一方で、ENC Development Fundによる年間2,000万ドルの拠出が維持される点は、各国のNTPにとって重要な意味を持ちます。大会そのものが1年先送りになっても、代表チームの運営や国内のエコシステム育成に対する資金供給は止まらないため、この期間をどう活用するかが各国の課題になります。日本の場合も、JeSUと平岩氏の体制のもとで代表チームの活動をどう継続させるかが問われることになりそうです。

ENCは、eスポーツにおいて「国を代表して戦う」という枠組みを大規模に制度化しようとする初めての試みでした。100カ国・地域超という規模、順位に応じた一律の賞金設計、所属クラブへのインセンティブ、adidasによる全代表チームのユニフォーム提供といった仕組みは、いずれも既存のクラブ中心のeスポーツとは異なる発想に基づいています。その第1回大会が、競技上の理由ではなく地域情勢によって1年先送りされたという事実は、eスポーツが国際的なオフラインイベント産業として成熟したがゆえに、従来のスポーツと同じリスクを抱えるようになったことを示しているともいえます。日本代表として出場権を勝ち取った選手たちが、2027年11月のリヤドでどのような扱いを受けるのか。9月の説明会以降に示される情報を待ちたいところです。

(C) esports-spirit.com/ ©Esports Foundation

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